桜の樹の下には / 樱花树下
作者:梶井基次郎
【日】 桜の樹の下には屍体したいが埋まっている!
【中】 樱花树下埋着尸体!
【日】 これは信じていいことなんだよ。何故なぜって、桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか。俺はあの美しさが信じられないので、この二三日不安だった。しかしいま、やっとわかるときが来た。桜の樹の下には屍体が埋まっている。これは信じていいことだ。
【中】 这是绝对毋庸置疑的。为什么这么说呢?因为樱花开得那样绚丽夺目,简直令人难以置信不是吗。我就是因为无法相信那种美,这两三天才一直感到惴惴不安。但是现在,我终于明白了。樱花树下埋着尸体。这是绝对毋庸置疑的。
【日】 どうして俺が毎晩家へ帰って来る道で、俺の部屋の数ある道具のうちの、選よりに選ってちっぽけな薄っぺらいもの、安全剃刀の刃なんぞが、千里眼のように思い浮かんで来るのか――おまえはそれがわからないと言ったが――そして俺にもやはりそれがわからないのだが――それもこれもやっぱり同じようなことにちがいない。
【中】 怎么会每晚我回家的路上,在我房间里数不清的物件中,偏偏挑出最不起眼的薄薄的一片——安全剃须刀的刀片之类的东西,像拥有千里眼一般浮现在我脑海中呢?——你说你不明白这是为什么——而我自己其实也同样不明白——不过这和那,肯定都是同理吧。
【日】 いったいどんな樹の花でも、いわゆる真っ盛りという状態に達すると、あたりの空気のなかへ一種神秘な雰囲気を撒き散らすものだ。それは、よく廻った独楽こまが完全な静止に澄むように、また、音楽の上手な演奏がきまってなにかの幻覚を伴うように、灼熱しゃくねつした生殖の幻覚させる後光のようなものだ。それは人の心を撲うたずにはおかない、不思議な、生き生きとした、美しさだ。
【中】 无论是什么树的花,一旦达到所谓“盛开”的状态,就会向周围的空气中散发一种神秘的氛围。就像高速旋转的陀螺静止时那种澄澈,又像高超的音乐演奏必定伴随某种幻觉一样,那是一种仿佛令人产生灼热生殖幻觉的背光。那是一种不可避免地敲打人心的、不可思议的、生机勃勃的美。
【日】 しかし、昨日、一昨日、俺の心をひどく陰気にしたものもそれなのだ。俺にはその美しさがなにか信じられないもののような気がした。俺は反対に不安になり、憂鬱ゆううつになり、空虚な気持になった。しかし、俺はいまやっとわかった。
【中】 然而,昨天、前天,让我心情变得极其阴郁的也正是这种东西。我觉得那种美有着某种令人难以置信的特质。我反而变得不安、忧郁,感到内心的空虚。但是,我现在终于明白了。
【日】 おまえ、この爛漫らんまんと咲き乱れている桜の樹の下へ、一つ一つ屍体が埋まっていると想像してみるがいい。何が俺をそんなに不安にしていたかがおまえには納得がいくだろう。
【中】 你试着想象一下,在这烂漫盛开的樱花树下,一具具尸体被埋在下面。你就会明白是什么让我如此不安了。
【日】 馬のような屍体、犬猫のような屍体、そして人間のような屍体、屍体はみな腐爛ふらんして蛆うじが湧き、堪たまらなく臭い。それでいて水晶のような液をたらたらとたらしている。桜の根は貪婪どんらんな蛸たこのように、それを抱きかかえ、いそぎんちゃくの食糸のような毛根を聚あつめて、その液体を吸っている。
【中】 像马一样的尸体,像猫狗一样的尸体,还有像人一样的尸体,所有的尸体都腐烂生蛆,臭不可闻。但同时,它们又滴滴答答地流淌着水晶般的液体。樱花的根就像贪婪的章鱼一样,紧紧抱住它们,聚集起海葵触手般的毛根,吸吮着那液体。
【日】 何があんな花弁を作り、何があんな蕊しべを作っているのか、俺は毛根の吸いあげる水晶のような液が、静かな行列を作って、維管束のなかを夢のようにあがってゆくのが見えるようだ。
【中】 是什么造就了那样的花瓣,是什么造就了那样的花蕊?我仿佛能看到,毛根吸吮的水晶般的液体,排着安静的队列,如梦似幻地在维管束中缓缓上升。
【日】 ――おまえは何をそう苦しそうな顔をしているのだ。美しい透視術じゃないか。俺はいまようやく瞳ひとみを据えて桜の花が見られるようになったのだ。昨日、一昨日、俺を不安がらせた神秘から自由になったのだ。
【中】 ——你干嘛露出一副那么痛苦的表情?这不是一种美丽的透视术吗?我现在终于能定睛去欣赏樱花了。我终于从昨天、前天让我感到不安的神秘中解脱出来了。
【日】 二三日前、俺は、ここの溪たにへ下りて、石の上を伝い歩きしていた。水のしぶきのなかからは、あちらからもこちらからも、薄羽かげろうがアフロディットのように生まれて来て、溪の空をめがけて舞い上がってゆくのが見えた。おまえも知っているとおり、彼らはそこで美しい結婚をするのだ。しばらく歩いていると、俺は変なものに出喰でくわした。それは溪の水が乾いた磧かわらへ、小さい水溜を残している、その水のなかだった。思いがけない石油を流したような光彩が、一面に浮いているのだ。おまえはそれを何だったと思う。それは何万匹とも数の知れない、薄羽かげろうの屍体だったのだ。隙間なく水の面を被っている、彼らのかさなりあった翅はねが、光にちぢれて油のような光彩を流しているのだ。そこが、産卵を終わった彼らの墓場だったのだ。
【中】 两三天前,我下到这里的溪谷里,在石头上跳跃着前行。我看到水花之中,从这里那里,薄翅蜉蝣像阿佛洛狄忒(爱与美之神)一样诞生,朝着溪谷的天空飞舞而上。你也知道,它们将在那里举行美丽的婚礼。走了一会儿,我碰到了一个奇怪的东西。那是溪水干涸的河滩上留下的小水洼,就在那水里。一种意想不到的、像漏了石油一样的光彩,浮满了水面。你猜那是什么?那是数以万计的、数不清的薄翅蜉蝣的尸体。它们密密麻麻地覆盖在水面上,重叠在一起的翅膀在光线的折射下,流淌着像油一样的光彩。那里就是产卵后它们的坟场。
【日】 俺はそれを見たとき、胸が衝つかれるような気がした。墓場を発あばいて屍体を嗜このむ変質者のような残忍なよろこびを俺は味わった。
【中】 当我看到那景象时,我觉得心口仿佛被猛击了一下。我尝到了一种如同喜欢挖掘坟墓、嗜好尸体的变态者般的残忍喜悦。
【日】 この溪間ではなにも俺をよろこばすものはない。鶯うぐいすや四十雀しじゅうからも、白い日光をさ青に煙らせている木の若芽も、ただそれだけでは、もうろうとした心象に過ぎない。俺には惨劇が必要なんだ。その平衡があって、はじめて俺の心象は明確になって来る。俺の心は悪鬼のように憂鬱に渇いている。俺の心に憂鬱が完成するときにばかり、俺の心は和なごんでくる。
【中】 在这溪谷里,没有任何东西能让我感到高兴。黄莺和山雀也好,在白色的阳光下蒸腾出青翠烟雾般的树木嫩芽也好,仅仅是这些,都不过是模糊的心理表象。我需要惨剧。只有有了这种平衡,我的心象才会变得清晰起来。我的心像恶鬼一样渴望着忧郁。只有当我的内心中忧郁完成时,我的心才会平静下来。
【日】 ――おまえは腋わきの下を拭ふいているね。冷汗が出るのか。それは俺も同じことだ。何もそれを不愉快がることはない。べたべたとまるで精液のようだと思ってごらん。それで俺達の憂鬱は完成するのだ。
【中】 ——你在擦拭腋下吧。是在出冷汗吗?那我也一样。没必要因为这个感到不快。你试着把它想成是黏糊糊的精液吧。这样我们的忧郁就完成了。
【日】 ああ、桜の樹の下には屍体が埋まっている!
【中】 啊,樱花树下埋着尸体!
【日】 いったいどこから浮かんで来た空想かさっぱり見当のつかない屍体が、いまはまるで桜の樹と一つになって、どんなに頭を振っても離れてゆこうとはしない。
【中】 这些不知究竟从哪里浮现出来的空想的尸体,如今简直与樱花树融为一体,怎么摇头也挥之不去。
【日】 今こそ俺は、あの桜の樹の下で酒宴をひらいている村人たちと同じ権利で、花見の酒が呑のめそうな気がする。
【中】 此时此刻,我觉得我终于有资格,和那些在樱花树下大摆酒宴的村民们一样,痛快地喝上一杯赏花酒了。