瓶詰地獄 / 瓶中地狱
夢野久作 / 梦野久作
+目次 / 目录(呈报信)
**日:**拝呈 時下益々御清栄、奉慶賀候。陳者は、予かねてより御通達の、潮流研究用と覚しき、赤封蝋附きの麦酒瓶、拾得次第届告仕る様、島民一般に申渡置候処、此程、本島南岸に、別小包の如き、樹脂封蝋附きの麦酒瓶が三個漂着致し居るを発見、届出申候。
**中:**敬启者:祝日益清荣,恭贺之至。前些时日接获贵所通知,嘱咐若拾获疑似用于洋流研究、带有红色封蜡的啤酒瓶,须立即申报。我等已将此通告全岛岛民。近日,于本岛南岸发现三个带有树脂封蜡、形似小包裹的啤酒瓶漂流至此,已有人前来申报。
**日:**右は何れも約半里、乃至、一里余を隔てたる個所に、或は砂に埋もれ、又は岩の隙間に固く挟まれ居りたるものにて、よほど以前に漂着致したるものらしく、中味も、御高示の如き、官製端書とは相見えず、雑記帳の破片様のものらしく候為め、御下命の如き漂着の時日等の記入は不可能と被為存候。
**中:**这三个瓶子分别在相距半里至一里多的地方被发现,有的埋在沙中,有的紧紧卡在岩缝里。看样子是很久以前漂来的,里面的东西也不像贵所指示的官方明信片,倒像是笔记本的碎片。因此,我们认为无法按贵所要求填报漂流抵达的日期等信息。
**日:**然れ共、尚何かの御参考と存じ、三個とも封瓶のまま、村費にて御送附申上候間、何卒御落手相願度、此段得貴意候 敬具
**中:**尽管如此,想着或许能作为某种参考,便将这三个未开封的瓶子以村费寄送给贵所,希望能妥善查收。特此禀报。敬具
**日:**月 日
××島村役場※[#丸印]
海洋研究所 御中
**中:**月 日
××岛村公所(公章)
海洋研究所 台启
◇第一の瓶の内容 / ◇ 第一只瓶子的内容
**日:**ああ………この離れ島に、救いの舟がとうとう来ました。
**中:**啊啊……这十绝的孤岛上,救援的船只终于来了。
**日:**大きな二本のエントツの舟から、ボートが二艘、荒浪の上におろされました。舟の上から、それを見送っている人々の中にまじって、私たちのお父さまや、お母さまと思われる、なつかしいお姿が見えます。そうして……おお……私たちの方に向って、白いハンカチを振って下さるのが、ここからよくわかります。
**中:**两艘小艇从那艘有着两根大烟囱的船上,放到了波涛汹涌的海面上。在船上目送的人群中,我们看到了似乎是父亲和母亲的、令人怀念的身影。而且……哦哦……可以清楚地看到他们正朝着我们这边挥舞着白手绢。
**日:**お父さまや、お母さまたちはきっと、私たちが一番はじめに出した、ビール瓶の手紙を御覧になって、助けに来て下すったに違いありませぬ。
**中:**父亲和母亲一定是看到了我们最初扔出的那个啤酒瓶里的信,才特意赶来救我们的。
**日:**大きな船から真白い煙が出て、今助けに行くぞ……というように、高い高い笛の音が聞こえて来ました。その音が、この小さな島の中の、禽鳥や昆虫を一時に飛び立たせて、遠い海中に消えて行きました。
**中:**大船上升起纯白的烟,发出仿佛在呼喊着“现在就去救你们”的高昂汽笛声。那声音惊飞了这座小岛上的鸟儿和昆虫,消散在远方的海天之间。
**日:**けれども、それは、私たち二人にとって、最後の審判の日のらっぱよりも怖ろしい響きで御座いました。私たちの前で天と地が裂けて、神様のお眼の光りと、地獄の火焔が一時いっときに閃き出たように思われました。
**中:**然而,那声音对我们两人来说,比最后审判日的号角还要可怕。感觉天地在我们面前裂开,上帝的目光和地狱的烈火在同一瞬间闪现。
**日:**ああ。手が慄えて、心が倉皇てて書かれませぬ。涙で眼が見えなくなります。
**中:**啊啊。我的手在颤抖,心慌乱得写不下去了。泪水模糊了双眼。
**日:**私たち二人は、今から、あの大きな船の真正面に在る高い崖の上に登って、お父様や、お母様や、救いに来て下さる水夫さん達によく見えるように、シッカリと抱き合ったまま、深い淵の中に身を投げて死にます。そうしたら、いつも、あそこに泳いでいるフカが、間もなく、私たちを喰べてしまってくれるでしょう。そうして、あとには、この手紙を詰めたビール瓶が一本浮いているのを、ボートに乗っている人々が見つけて、拾い上げて下さるでしょう。
**中:**我们两人,现在就要爬上那艘大船正对面的高崖,在父亲、母亲和前来救援的水手们能清楚看到的地方,紧紧拥抱在一起,投身于深渊之中。这样一来,一直在那里游弋的鲨鱼,不久就会把我们吃掉吧。之后,小艇上的人们会发现这个装有信的啤酒瓶漂浮在水面上,并把它捞起来吧。
**日:**ああ。お父様。お母様。すみません。すみません、すみません、すみません。私たちは初めから、あなた方の愛子でなかったと思って諦らめて下さいませ。
**中:**啊啊。父亲。母亲。对不起。对不起,对不起,对不起。请你们死心吧,就当我们从一开始就不是你们的爱子。
**日:**又、せっかく、遠い故郷から、私たち二人を、わざわざ助けに来て下すった皆様の御親切に対しても、こんなことをする私たち二人はホントにホントに済みません。どうぞどうぞお赦し下さい。そうして、お父様と、お母様に懐かれて、人間の世界へ帰る、喜びの時が来ると同時に、死んで行かねばならぬ、不倖な私たちの運命を、お矜恤下さいませ。
**中:**另外,对于远道而来特意拯救我们两人的各位的善意,做出这种事的我们两人,真的真的感到万分抱歉。请千万千万宽恕我们。并在我们满心欢喜准备投入父母怀抱、重返人类世界的同时,却不得不赴死的这不幸命运,致以怜悯吧。
**日:**私たちは、こうして私たちの肉体を罰せねば、犯した罪の報償が出来ないのです。この離れ島の中で、私たち二人が犯した、それはそれは恐ろしい悖戻の報責なのです。
**中:**如果不这样惩罚我们的肉体和灵魂,就无法赎清我们犯下的罪孽。在这座孤岛上,我们两人犯下的,是极其可怕、违背伦常的罪恶。
**日:**どうぞ、これより以上に懺悔することを、おゆるし下さい。私たち二人はフカの餌食になる価打しか無い、狂妄だったのですから……。ああ。さようなら。
**中:**请原谅我们无法做更多的忏悔。我们两人,只不过是只配做鲨鱼诱饵的狂徒罢了……啊啊。再见了。
**日:**神様からも人間からも救われ得ぬ、哀しき二人より / お父様 / お母様 / 皆々様
**中:**被上帝和人类所抛弃的、悲哀的两人敬上 / 父亲 / 母亲 / 各位
◇第二の瓶の内容 / ◇ 第二只瓶子的内容
**日:**ああ。隠微たるに鑒みたまう神様よ。
**中:**啊啊。洞察隐微的上帝啊。
**日:**この困難から救わるる道は、私が死ぬよりほかに、どうしても無いので御座いましょうか。
**中:**从这苦难中解脱的办法,除了我死之外,难道真的别无他法了吗?
**日:**私たちが、神様の足だいと呼んでいる、あの高い崖の上に私がたった一人で登って、いつも二、三匹のフカが遊び泳いでいる、あの底なしの淵の中を、のぞいてみた事は、今までに何度あったかわかりませぬ。そこから今にも身を投げようと思ったことも、いく度であったか知れませぬ。けれども、そのたんびに、あの憐憫なアヤ子の事を思い出しては、霊魂を滅亡す深いため息をしいしい、岩の圭角を降りて来るのでした。私が死にましたならば、あとから、きっと、アヤ子も身を投げるであろうことが、わかり切っているからでした。
**中:**我们称之为“上帝的脚凳”的那座高崖,我曾独自一人爬上去,不知多少次凝视过那总有两三条鲨鱼游弋的无底深渊。不知多少次,我想就此纵身跃下。可是,每次一想到可怜的绫子,便发出毁灭灵魂的深深叹息,从岩角上退了下来。因为我清楚地知道,如果我死了,绫子肯定也会跟着跳下去。
*
**日:**私と、アヤ子の二人が、あのボートの上で、附添いの乳母夫妻や、センチョーサンや、ウンテンシュさん達を、波に浚われたまま、この小さな離れ島に漂れついてから、もう何年になりましょうか。この島は年中夏のようで、クリスマスもお正月も、よくわかりませぬが、もう十年ぐらい経っているように思います。
**中:**我和绫子两人,在那艘小艇上,与随行的奶妈夫妇、船长和驾驶员们一起被海浪卷走,漂流到这座小孤岛上,已经过了多少年了呢?这座岛一年四季如同盛夏,也分不清圣诞节或新年,但感觉大概已经过了十年了。
**日:**その時に、私たちが持っていたものは、一本のエンピツと、ナイフと、一冊のノートブックと、一個のムシメガネと、水を入れた三本のビール瓶と、小さな新約聖書が一冊と……それだけでした。けれども、私たちは幸福でした。
**中:**那时我们拥有的东西,只有一支铅笔、一把小刀、一本笔记本、一个放大镜、三个装了水的啤酒瓶、一本小新约圣经……仅此而已。然而,我们很幸福。
**日:**この小さな、緑色に繁茂え栄えた島の中には、稀に居る大きな蟻のほかに、私たちを憂患す禽、獣、昆虫は一匹も居ませんでした。そうして、その時、十一歳であった私と、七ツになったばかりのアヤ子と二人のために、余るほどの豊饒な食物が、みちみちておりました。
**中:**在这座长满绿色植被的小岛上,除了罕见的大蚂蚁外,没有一只会伤害我们的鸟兽昆虫。而且,对于当时十一岁的我和刚满七岁的绫子来说,有着吃不完的丰饶食物。
**日:**キュウカンチョウだの鸚鵡だの、絵でしか見たことのないゴクラク鳥だの、見たことも聞いたこともない華麗な蝶だのが居りました。おいしいヤシの実だの、パイナプルだの、バナナだの、赤と紫の大きな花だの、香気のいい草だの、又は、大きい、小さい鳥の卵だのが、一年中、どこかにありました。鳥や魚なぞは、棒切れでたたくと、何ほどでも取れました。
**中:**有九官鸟、鹦鹉,有只在画里见过的极乐鸟,还有见所未见、闻所未闻的华丽蝴蝶。美味的椰子、菠萝、香蕉,巨大的红紫鲜花,芳香的野草,还有大大小小的鸟蛋,一年四季随处可见。鸟和鱼之类的,用木棍敲一敲就能抓到很多。
**日:**私たちは、そんなものを集めて来ると、ムシメガネで、天日を枯れ草に取って、流れ木に燃やしつけて、焼いて喰べました。
**中:**我们把这些东西收集起来,用放大镜聚焦阳光点燃枯草,引燃漂流木,烤着吃。
**日:**そのうちに島の東に在る岬と磐の間から、キレイな泉が潮の引いた時だけ湧いているのを見付けましたから、その近くの砂浜の岩の間に、壊れたボートで小舎を作って、柔らかい枯れ草を集めて、アヤ子と二人で寝られるようにしました。それから小舎のすぐ横の岩の横腹を、ボートの古釘で四角に掘って、小さな倉庫みたようなものを作りました。
**中:**后来,我们发现在岛东边海角和岩石之间,只有退潮时才会涌出清澈的泉水,于是就在那附近的沙滩岩石间,用破损的小艇搭了个小屋,铺上柔软的枯草,足够我和绫子两人睡觉。接着,我们在小屋旁边的岩壁上,用小艇上的旧铁钉挖了一个方形的洞,做成了一个类似小仓库的东西。
**日:**しまいには、外衣も裏衣も、雨や、風や、岩角に破られてしまって、二人ともホントのヤバン人のように裸体になってしまいましたが、それでも朝と晩には、キット二人で、あの神様の足だいの崖に登って、聖書を読んで、お父様やお母様のためにお祈りをしました。
**中:**最后,我们的外套和内衣都被雨水、风和岩角磨破了,两人就像真正的野蛮人一样赤身裸体,但即便如此,每天早晚,我们必定会一起爬上“上帝的脚凳”那座悬崖,阅读圣经,为父母祈祷。
**日:**私たちは、それから、お父様とお母様にお手紙を書いて大切なビール瓶の中の一本に入れて、シッカリと樹脂で封じて、二人で何遍も何遍も接吻をしてから海の中に投げ込みました。そのビール瓶は、この島のまわりを環る、潮の流れに連れられて、ズンズンと海中遠く出て行って、二度とこの島に帰って来ませんでした。私たちはそれから、誰かが助けに来て下さる目標になるように、神様の足だいの一番高い処へ、長い棒切れを樹てて、いつも何かしら、青い木の葉を吊しておくようにしました。
**中:**之后,我们给父母写了信,装进珍贵的三个啤酒瓶中的一个,用树脂紧紧封住,两人吻了又吻,然后投进了海里。那只啤酒瓶顺着环绕这座岛的洋流,向着遥远的大海深处漂去,再也没有回到这座岛上。然后我们在“上帝的脚凳”最高处竖起一根长木棍,总是挂着些绿树叶,作为前来救援的人的标记。
**日:**私たちは時々争論をしました。けれどもすぐに和平をして、学校ゴツコや何かをするのでした。私はよくアヤ子を生徒にして、聖書の言葉や、字の書き方を教えてやりました。そうして二人とも、聖書を、神様とも、お父様とも、お母様とも、先生とも思って、ムシメガネや、ビール瓶よりもズット大切にして、岩の穴の一番高い棚の上に上げておきました。私たちは、ホントに幸福で、平安でした。この島は天国のようでした。
**中:**我们有时也会争吵。但是很快就会和好,玩玩学校游戏(过家家)之类的。我经常让绫子当学生,教她圣经里的话和写字。我们两人都把圣经当作上帝、当作父母、当作老师,看得比放大镜和啤酒瓶还要重要,把它放在岩洞最高处的架子上。我们真的很幸福,很安宁。这座岛简直就像天堂。
*
**日:**かような離れ島の中の、たった二人切りの幸福の中に、恐ろしい悪魔が忍び込んで来ようと、どうして思われましょう。けれども、それは、ホントウに忍び込んで来たに違いないのでした。
**中:**谁能想到,在这般孤岛上,仅有两人的幸福之中,竟会有可怕的恶魔潜入。可是,恶魔确实是潜入进来了。
**日:**それはいつからとも、わかりませんが、月日の経たつのにつれて、アヤ子の肉体が、奇蹟のように美しく、麗沢に長そだって行くのが、アリアリと私の眼に見えて来ました。ある時は花の精のようにまぶしく、又、ある時は悪魔のようになやましく……そうして私はそれを見ていると、何故かわからずに思念が曚昧く、哀しくなって来るのでした。
**中:**不知从何时起,随着岁月的流逝,我眼睁睁地看着绫子的肉体奇迹般地出落得越发美丽、丰润。时而如花精般耀眼,时而又如恶魔般令人心神不宁……我看着她,不知为何会感到思绪蒙昧、悲伤。
日:「お兄さま…………」とアヤ子が叫びながら、何の罪穢もない瞳を輝かして、私の肩へ飛び付いて来るたんびに、私の胸が今までとはまるで違った気もちでワクワクするのが、わかって来ました。そうして、その一度一度毎に、私の心は沈淪の患難に付されるかのように、畏懼れ、慄えるのでした。
中:“哥哥……”每当绫子呼喊着,闪耀着毫无罪恶污秽的眼睛,扑到我肩上时,我感觉到自己的心境与以往截然不同,胸口扑通扑通地跳着。每一次,我的心都仿佛被交给了毁灭的苦难,充满敬畏与战栗。
**日:**けれども、そのうちにアヤ子の方も、いつとなく態度がかわって来ました。やはり私と同じように、今までとはまるで違った…………もっともっとなつかしい、涙にうるんだ眼で私を見るようになりました。そうして、それにつれて何となく、私の身体に触るのが恥かしいような、悲しいような気もちがするらしく見えて来ました。
**中:**渐渐地,绫子的态度也发生了变化。像我一样,她开始用与以往截然不同的……更加眷恋、泪光盈盈的眼眸注视着我。随之而来的,是她似乎对触碰我的身体感到羞涩,又带点悲伤。
**日:**二人はちっとも争論をしなくなりました。その代り、何となく憂容をして、時々ソッと嘆息をするようになりました。それは、二人切りでこの離れ島に居るのが、何ともいいようのないくらい、なやましく、嬉しく、淋しくなって来たからでした。
**中:**两人再也不争吵了。取而代之的是,两人都面带愁容,时不时地暗自叹息。那是因为,只有两人留在这孤岛上,变得越来越难以言喻地令人苦闷、欢喜又寂寞。
**日:**そればかりでなく、お互いに顔を見合っているうちに、眼の前が見る見る死蔭のように暗くなって来ます。そうして神様のお啓示か、悪魔の戯弄かわからないままに、ドキンと、胸が轟くと一緒にハッと吾に帰るような事が、一日のうち何度となくあるようになりました。
**中:**不仅如此,两人互相注视着,眼前的景象瞬间变得如同死亡的阴影般黑暗。不知是上帝的启示还是恶魔的捉弄,心脏猛烈跳动的同时,猛然惊醒般回过神来,一天之中不知会有多少次这样的情况。
**日:**二人は互いに、こうした二人の心をハッキリと知り合っていながら、神様の責罰を恐れて、口に出し得ずにいるのでした。万一、そんな事をし出かしたアトで、救いの舟が来たらどうしよう…………という心配に打たれていることが、何にも云わないまんまに、二人同志の心によくわかっているのでした。
**中:**我们两人彼此心里都很清楚对方的心意,但又因为害怕上帝的惩罚,谁也不敢说出口。万一,做了那样的事之后,救援的船来了怎么办……这种担忧,即使什么也不说,两人心里也都非常明白。
**日:**けれども、或る静かに晴れ渡った午後の事、ウミガメの卵を焼いて食べたあとで、二人が砂原に足を投げ出して、はるかの海の上を辷って行く白い雲を見つめているうちにアヤ子はフイと、こんな事を云い出しました。
**中:**可是,在一个宁静晴朗的下午,烤海龟蛋吃完之后,两人把腿伸在沙滩上,凝视着在远方海面上滑行的白云,绫子突然说出这样的话:
日:「ネエ。お兄様。あたし達二人のうち一人が、もし病気になって死んだら、あとは、どうしたらいいでしょうネエ」
中:“呐。哥哥。如果我们俩有一个人得病死了,剩下的那个人该怎么办呢?”
**日:**そう云ううちアヤ子は、面を真赤にしてうつむきまして、涙をホロホロと焼け砂の上に落しながら、何ともいえない、悲しい笑い顔をして見せました。
**中:**说着,绫子涨红了脸,低下头,眼泪扑簌扑簌地滴落在滚烫的沙子上,露出了一种难以名状的、悲伤的笑容。
*
**日:**その時に私が、どんな顔をしたか、私は知りませぬ。ただ死ぬ程息苦しくなって、張り裂けるほど胸が轟いて、唖のように何の返事もし得ないまま立ち上りますと、ソロソロとアヤ子から離れて行きました。そうしてあの神様の足だいの上に来て、頭を掻きむしり掻きりひれ伏しました。
**中:**那时我露出了怎样的表情,我自己也不知道。我只觉得呼吸困难得快要死去,心脏跳得仿佛要裂开。我像哑巴一样什么也没回答就站了起来,慢慢地离开了绫子。我来到“上帝的脚凳”上,抓挠着头发,匍匐在地上。
日:「ああ。天にまします神様よ。アヤ子は何も知りませぬ。ですから、あんな事を私に云ったのです。どうぞ、あの処女を罰しないで下さい。そうして、いつまでもいつまでも清浄にお守り下さいませ。そうして私も…………。
中:“啊啊。天上的上帝啊。绫子什么都不懂。所以她才会对我说那种话。请您不要惩罚那个纯洁的少女。请您永远永远守护她的纯洁。也请您守护我……
**日:**ああ。けれども…………けれども…………。ああ神様よ。私はどうしたら、いいのでしょう。どうしたらこの患難から救われるのでしょう。私が生きておりますのはアヤ子のためにこの上もない罪悪です。けれども私が死にましたならば、尚更深い、悲しみと、苦しみをアヤ子に与えることになります、ああ、どうしたらいいでしょう私は…………。
**中:**啊啊。可是……可是……啊啊,上帝啊。我该怎么办呢。我怎样才能从这苦难中解脱出来呢。我活着,对绫子来说是莫大的罪恶。但如果我死了,会给绫子带来更深的悲伤和痛苦。啊,我该怎么办才好我是……
**日:**おお神様よ…………。私の髪毛は砂にまみれ、私の腹は岩に押しつけられております。もし私の死にたいお願いが聖意にかないましたならば、只今すぐに私の生命を、燃ゆる閃電にお付し下さいませ。ああ。隠微たるに鑒給う神様よ。どうぞどうぞ聖名を崇めさせ給え。み休徴を地上にあらわし給え…………」
**中:**哦,上帝啊……我的头发沾满了沙子,我的腹部紧贴着岩石。如果我想死的祈求能符合您的圣意,请立刻将我的生命交给燃烧的闪电吧。啊啊。洞察隐微的上帝啊。请彰显您的圣名。在地上显现您的奇迹吧……”
**日:**けれども神様は、何のお示しも、なさいませんでした。藍色の空には、白く光る雲が、糸のように流れているばかり…………崖の下には、真青く、真白く渦捲きどよめく波の間を、遊び戯れているフカの尻尾やヒレが、時々ヒラヒラと見えているだけです。
**中:**可是,上帝没有给出任何启示。靛蓝色的天空中,只流淌着如丝般闪耀着白光的云朵……在悬崖下方,在深蓝与雪白交织、漩涡汹涌的波涛间,只能时不时瞥见嬉戏玩闹的鲨鱼的尾巴和鳍在闪动。
**日:**その青澄んだ、底無しの深淵を、いつまでもいつまでも見つめているうちに、私の目は、いつとなくグルグルと、眩暈き初めました。思わずヨロヨロとよろめいて、漂い砕くる波の泡の中に落ち込みそうになりましたが、やっとの思いで崖の端に踏み止まりました。…………と思う間もなく私は崖の上の一番高い処まで一跳びに引き返しました。その絶頂に立っておりました棒切れと、その尖端に結びつけてあるヤシの枯れ葉を、一思いに引きたおして、眼の下はるかの淵に投げ込んでしまいました。
**中:**凝视着那清澈湛蓝的无底深渊,不知不觉间,我的眼睛开始一阵眩晕。我踉跄了一下,险些跌入那翻滚破碎的浪花中,但我拼尽全力在悬崖边缘稳住了脚步。……就在那一瞬间,我一个箭步转身冲回了悬崖的最高处。我毫不犹豫地把立在顶点的那根木棍,以及绑在顶端的枯萎椰子叶拔倒,扔进了眼底遥远的深渊。
日:「もう大丈夫だ。こうしておけば、救いの船が来ても通り過ぎて行くだろう」
中:“这下就没关系了。只要这么做,就算救援船来了也会直接开过去吧。”
**日:**こう考えて、何かしらゲラゲラと嘲り笑いながら、残狼のように崖を馳け降りて、小舎の中へ馳け込みますと、詩篇の処を開いてあった聖書を取り上げて、ウミガメの卵を焼いた火の残りの上に載せ、上から枯れ草を投げかけて焔を吹き立てました。そうして声のある限り、アヤ子の名を呼びながら、砂浜の方へ馳け出して、そこいらを見まわしました…………が…………。
**中:**这样想着,我不知为何一边发出咯咯的嘲笑声,一边如残狼般冲下悬崖。冲进小屋后,我拿起那本翻开在诗篇的圣经,将它放在烤海龟蛋剩下的火堆上,又抓起枯草扔在上面,吹起火苗。然后,我用尽全力呼喊着绫子的名字,跑到沙滩上,环顾四周……但是……
**日:**見るとアヤ子は、はるかに海の中に突き出ている岬の大磐の上に跪いて、大空を仰ぎながらお祈りをしているようです。
**中:**我看到绫子跪在远远伸入海中的海角那块巨大的岩石上,正仰望着天空祈祷。
*
**日:**私は二足三足うしろへ、よろめきました。荒浪に取り捲かれた紫色の大磐の上に、夕日を受けて血のように輝いている処女の背中の神々しさ…………。ズンズンと潮が高まって来て、膝の下の海藻を洗い漂わしているのも心付かずに、黄金色の滝浪を浴びながら一心に祈っている、その姿の崇高さ…………まぶしさ…………。
**中:**我向后踉跄了两三步。在被狂浪包围的紫色大岩石上,迎着夕阳如鲜血般闪耀的少女的背影,是何等的圣洁……潮水渐渐上涨,即使洗刷着膝盖下方的海藻也浑然不觉,沐浴在金色的瀑布浪花中,专心致志祈祷的身影,是何等崇高……何等耀眼……
**日:**私は身体を石のように固ばらせながら、暫くの間、ボンヤリと眼をみはっておりました。けれども、そのうちにフイッと、そうしているアヤ子の決心がわかりますと、私はハッとして飛び上がりました。夢中になって馳け出して、貝殻ばかりの岩の上を、傷だらけになって辷りながら、岬の大磐の上に這い上りました。キチガイのように暴れ狂い、哭き喚ぶアヤ子を、両腕にシッカリと抱き抱えて、身体中血だらけになって、やっとの思いで、小舎の処へ帰って来ました。
**中:**我的身体像石头一样僵硬着,好一会儿,只能呆呆地睁大眼睛看着。但是,当我也突然明白了绫子那样做的决心时,我大惊失色地跳了起来。我拼命地奔跑,在满是贝壳的岩石上滑倒,浑身是伤,终于爬上了海角的大岩石。我紧紧抱住像疯了一样狂暴、哭喊的绫子,全身沾满鲜血,好不容易才回到了小屋所在的地方。
**日:**けれども私たちの小舎は、もうそこにはありませんでした。聖書や枯れ草と一緒に、白い煙となって、青空のはるか向うに消え失せてしまっているのでした。
**中:**可是,我们的小屋已经不在那里了。它和圣经、枯草一起,化作白烟,消散在蓝天的彼岸。
*
**日:**それから後の私たち二人は、肉体も霊魂も、ホントウの幽暗に逐い出されて、夜となく、昼となく哀哭み、切歯みしなければならなくなりました。そうしてお互い相抱き、慰め、励まし、祈り、悲しみ合うことは愚か、同じ処に寝る事さえも出来ない気もちになってしまったのでした。
**中:**从那以后,我们两人的肉体和灵魂,都被驱逐到了真正的幽暗之中,不分昼夜地悲泣、咬牙切齿。不要说互相拥抱、安慰、鼓励、祈祷和分担悲伤,我们甚至连在同一个地方睡觉的心情都没有了。
**日:**それは、おおかた、私が聖書を焼いた罰なのでしょう。夜になると星の光りや、浪の音や、虫の声や、風の葉ずれや、木の実の落ちる音が、一ツ一ツに聖書の言葉をささやきながら、私たち二人を取り巻いて、一歩一歩と近づいて来るように思われるのでした。そうして身動き一つ出来ず、微睡むことも出来ないままに、離れ離れになって悶えている私たち二人の心を、窺視に来るかのように物怖ろしいのでした。
**中:**这,大概就是我烧毁圣经的惩罚吧。一到夜晚,星光、海浪声、虫鸣、风吹树叶的沙沙声、果实坠落的声音,仿佛都在一句句地呢喃着圣经里的话语,包围着我们,一步步地逼近。它们似乎是来窥探我们两人被隔绝、无法动弹、无法入眠、痛苦挣扎的内心,令人毛骨悚然。
**日:**こうして長い長い夜が明けますと、今度は同じように長い長い昼が来ます。そうするとこの島の中に照る太陽も、唄う鸚鵡も、舞う極楽鳥も、玉虫も、蛾も、ヤシも、パイナプルも、花の色も、草の芳香も、海も、雲も、風も、虹も、みんなアヤ子の、まぶしい姿や、息苦しい肌の香とゴッチャになって、グルグルグルグルと渦巻き輝やきながら、四方八方から私を包み殺そうとして、襲いかかって来るように思われるのです。その中から、私とおんなじ苦しみに囚われているアヤ子の、なやましい瞳が、神様のような悲しみと悪魔のようなホホエミとを別々に籠めて、いつまでもいつまでも私を、ジイッと見つめているのです。
**中:**当漫长漫长的黑夜过去,紧接着又是同样漫长漫长的白昼。这时,岛上的阳光、唱歌的鹦鹉、飞舞的极乐鸟、吉丁虫、飞蛾、椰子、菠萝、花的颜色、草的芳香、大海、云彩、风、彩虹,全都合着绫子那耀眼的身姿和令人窒息的肌肤香气混杂在一起,旋转着、闪耀着、仿佛要从四面八方将我包围扼杀般扑面而来。在其中,与我陷入同样痛苦的绫子那双迷人的眼睛,分别饱含着如上帝般的悲悯和如恶魔般的微笑,一直一直盯着我。
*
**日:**鉛筆が無くなりかけていますから、もうあまり長く書かれません。私は、これだけの虐遇と迫害に会いながら、なおも神様の禁責を恐れている私たちのまごころを、この瓶に封じこめて、海に投げ込もうと思っているのです。
**中:**铅笔快用完了,写不了太长了。我,尽管遭受了如此的折磨与磨难,还是想把我们依然敬畏上帝戒律的真心,封入这个瓶中投入大海。
**日:**明日にも悪魔の誘惑に負けるような事がありませぬうちに…………。せめて二人の肉体だけでも清浄でおりますうちに……。
**中:**趁着明天我们还没向恶魔的诱惑屈服…………趁着至少我们两人的肉体还是纯洁的……
*
**日:**ああ神様…………私たち二人は、こんな苛責に会いながら、病気一つせずに、日に増し丸々と肥って、康強に、美しく長そだって行くのです、この島の清らかな風と、水と、豊穣な食物と、美しい、楽しい、花と鳥とに護られて…………。
**中:**啊啊,上帝…………我们两人遭受着这样的折磨,却依然没有生病,反而一天比一天丰满,健康、美丽地成长着。在这座岛清新的风、水、丰饶的食物,还有美丽、欢乐的花与鸟的守护下……
**日:**ああ。何という恐ろしい責め苦でしょう。この美しい、楽しい島はもうスッカリ地獄です。神様、神様。あなたはなぜ私たち二人を、一思いに屠殺して下さらないのですか…………。
**中:**啊啊。这是多么可怕的酷刑啊。这座美丽、快乐的小岛,已经完全变成了地狱。上帝,上帝。您为什么不干脆痛快地把我们两人杀了呢…………
日:――太郎記す………
中:——太郎 记………
◇第三の瓶の内容 / ◇ 第三只瓶子的内容
**日:**オ父サマ。オ母サマ。ボクタチ兄ダイハ、ナカヨク、タッシャニ、コノシマニ、クラシテイマス。ハヤク、タスケニ、キテクダサイ。
市川 太郎
イチカワ アヤコ
**中:**爸 爸。妈 妈。我 们 兄 妹 俩,关 系 很 好,很 健 康 地,在 这 座 岛 上,生 活 着。请 快 点,来 救 我 们。
市 川 太 郎
市 川 绫 子